Sigma DP2, SIGMA LENS 24.2mm 1:2.8
数値データを見せられると、ついそこには客観性が担保されているように思えてしまうけど、よく気をつけてみる必要がある。
事象を全方面から網羅的に表現できる数値データなどない、という、ごく当たり前のことも忘れがちになる。
情報の出し手自身、それが事象のある一面しか表していないことに気づいていないときも多いけど、情報の出し手が意図した結論を導き出すために恣意的に部分抽出された数値データには特に注意が必要。
その良い例が、この本に書かれている。
『GREENSPAN'S BUBBLES: The Age of Ignorance at the Federal Reserve』
by William A. Fleckenstein and Frederick Sheehan
この中に、米政府が、物価に比例する社会保障関連給付を削減するために、数字をいじってインフレ率をなんと 2/3 に圧縮した手法について書かれているところがある。(3% → 1.9%!)
1)各期の CPI (消費者物価指数) の計算方法を単利→複利方式にこっそり変更した。
たとえば、これまでの計算方法だと、100$ のものが 5 年で 161$ になったとすると、インフレ率は 12% ちょっとだが、複利計算にすると年間 10%となる (100 x 1.1 x 1.1 x 1.1 x 1.1 x 1.1 = 161)。ほら、これだけで 2%も下がった!*
2)“ヘドニック調整”なるものを導入した。
これがまたばかげた調整方法で、たとえば、1979年から2004年の間のアメリカでの新車購入費用の平均は 308% 増加していたのだけど、「車の性能は向上しており、その分割安に購入できている」とする“調整”を行い、71%の増加だけ、としてしまった!**
この調整には明確な根拠がないことが非常に問題であると同時に、逆の調整(つまり品質の低下により割高な製品やサービスを購入している場合の調整)はまったく行われなかったことが大問題。
これを読んでいて、日本での事例を思い出した。
生活保護の母子加算全廃。
厚生労働省の全廃根拠は「母子加算を上乗せすると、生活保護を受けていない母子家庭の“平均的な”消費支出を上回る」ということだった。
NHK なんかは、この説明を垂れ流しにしていた。でも、なんと!この“平均”数値データは、母子家庭のたった 89 世帯調査しただけのものだった!(母1人子1人:32 世帯、母1人子2人:57 世帯)
こんな感じで、公にされているデータでもとんでもないデータもたくさんある。
客観的そうなデータは、逆に疑ってかからないとね。
・・・
さっきの本の話に戻って・・・
この本は、“経済のマエストロ”や“神”とも呼ばれた元 FRB 議長のアラン・グリーンスパンを徹底的に批判している。
生産性のことについては、アラン・グリーンスパンの意見にも理が無いわけではないので、少し気の毒になることもあるけど、残りの部分については、フレッケンシュタイン氏はさすがにとても鋭いところを突いていると思う。
何より凄いと思うのは、この本が書かれたのが(またこの本の元になったコラムが Web に掲載されたのが)、全米中、いや、世界の大部分の金融業界関係者がアラン・グリーンスパンの手腕に心酔していたときだった、というところだ。
当時から、アラン・グリーンスパンの手法を冷静かつ的確に批判していたフレッケンシュタイン氏はやはり凄いと言わざるを得ないね。
出典原文 (上記文中での日本語は原文訳ではありません。):
* The first and most straightforward was to switch the period-to-period CPI calculations from arithmetic to geometric. This change soundsinnocent enough,but let's look at its impact. Say that the price of a hog rises from $100 to $161 over five years.The “annualized” rise,the geometric calculation,is 10 percent a year. The change each year,the arithmetic calculation,is a little over 12 percent (61 divided by 5). Presto,the inflation rate shrinks.
** The Leuthold Group,a Minneapolis investment research firm,Calculated that between 1979 and 2004,the average price paid for a new car in the United States increased from $6,847 to $27,940, a 308 percent increase. Meanwhile,the BLS calculation for the consumer price index only comes to a 71 percent increase for autos over that same period. So, 237 percent of the price increase had been eliminated due to the estimated quality improvement of cars.
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