市庁舎前、午後1時。
Aix-en-Provence にて - Fujifilm Finepix S5 Pro, AF-S DX VR Zoom Nikkor ED 18-200mm F3.5-5.6G
まだ6月だったが、それはとても暑い日だった。
ホテルから小分けして持ってきたミネラルウォーターが底をついたので、市庁舎前の通りを少し行き過ぎたマルシェのはずれにある日用品店でコーラを買って公園に戻り、日陰を探した。
本当は冷えたビールが欲しい気分だったが、この辺はとても高いので諦めることにした。
見つけた日陰の石段に腰を下ろし、ぼんやり公園を眺めた。
カフェのテラスは昼休みで賑わっていた。
公園の噴水には名前の分からない鳥が何羽か留まって水浴びをし、絵葉書売りはワゴン車のテールゲートに腰掛けて暇そうに通りを眺めていた。
コーラを一口飲んでから、ずっと手に持っていたので少しぬるくなってしまったボトルのキャップを閉めて僕の隣に置いた。石段に手をつくとざらっとした感触がしたが、それはなにかずっと遠い世界のもののような気がした。
そのとき突然、僕は世界からまったく切り離されて、どこにもつながっていないことに気付いた。
今に始まったことじゃない。
ずっとそうだ。
生きている、っていうのは、どういうことだ?
「今見ているのも、これまで見てきたのも、全部夢だ」と言われたら、簡単に受け入れることが出来るだろう。
・・・
僕は、誰もやってこないレストランの店主だ。
毎朝、綺麗に掃除をしてテーブルをしつらえ、カトラリーを並べて店を開ける。
夜が更けて、通りに人通りがなくなったら、僕は誰も入ってこなかった店の扉を閉めて、使わなかった厨房を片付け、誰も席に着かなかったテーブルにホコリが掛からないようにして、店の明かりを消す。
ある朝、店の扉が開いていなかったとしても、誰も気にも留めない。
僕は、僕のためだけに、掃除をし、準備をして、店の扉を開け、そして閉める。
・・・
市庁舎の時計が、午後1時を公園にいる人たちに知らせていた。
テラスの客たちは時刻など気にしていない様子で、僕の知らない言葉をやり取りしている。
相変わらず、暑くて、静かな公園で、僕はどこからも切り離されて、ただそこに存在していた。