明滅する
Pentax K100D, smc Pentax FA43mmF1.9 Limited
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「それはね、この下辺りにあるんだよ。」
彼は金属でできた胸板のあたりを指差して言った。
「どうしても直らないみたいなので、交換しないといけないそうなんだ。」
「でもね、それを交換すると、もう僕は僕じゃなくなってしまうそうなんだよ。」
「それで、そうなる前に君にお別れの挨拶をしようと思って。」
彼はそこで少し言葉を止めてから続けた。
「僕は君の事が分からなくなることが、僕にとってどれだけ大きいことなのか分からないし、忘れてしまうということがどういうことなのかも分からない。でも、君と一緒にいた時間や記憶はどこに行ってしまうのだろう、って思う。今でもはっきりした形や重さを持って僕の中に存在しているのに。」
「交換した後の僕は、僕じゃないんだ。僕に良く似た別の存在。君はその僕に良く似た存在の中に僕を見つけようとするかもしれない。でもそれは僕じゃないんだ。」
そこまで言うと彼は黙り、じっとしていた。
「ありがとう。お別れの挨拶に来てくれて。」
「今の君がいなくなったら、今までの自分じゃなくなるのは一緒だよ。だから “おあいこ”。」
そう言って首にかけていた石を外し、彼に渡した。
「いつかこういう日がくるのは最初から分かっていたことだし、少し君の方が早かっただけ。でも、ちゃんとこうして最後に会えてよかった。」
・・・
帰り道、夜中の横断歩道から下を見ると、明滅する信号がずっと続いていた。
「随分遅くなったから、帰りは気をつけて」
別れ際に聞いた彼のいつもの口癖と笑顔が頭の中で何度も何度も再生されていた。
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